荻窪の街と暮らしを耕す、やわらかな「食の導線」

荻窪の街と、日々の暮らしを丁寧に「耕す」

「PLOW&CO.」という名前について、教えていただけますか?

和田さん PLOWには英語で「耕す」という意味があります。テラスに設ける予定の菜園で「実際に土を耕して野菜をつくる」という意味と、「街と暮らしを耕す」という住まい全体に関わるテーマが込められています。

杤尾さん オーナーさんの法人の名前は「魚耕(うおこう)」と書くんですが、「耕す」という文字には「自分たちのカルチャーをつくっていく」という意思が込められているんですね。ネーミングに同じ意味を持たせることで、どこかその心意気を継ぐイメージもあります。

和田さん 荻窪の街で何十年も魚屋さんを営んできたオーナーさんは、自分たちの会社を育ててくれた街に恩返しをしたいという思いが強かったんですよね。

杤尾さん 実は当初、ワンルームマンションを建てることも検討されていたんです。ただ、ワンルームマンションは、どうしても人のつながりが希薄になりやすい。やはり人の活力が集まって、何かが生まれてくることを重視しようと。そこで、シェアハウスという選択になったんです。

「食」をコンセプトとしたのは?

和田さん 日頃、様々なカフェやレストランの企画や設計を手がけることが多いのですが、経験的にご飯をつくったり食べたりする場にはコミュニティーが生まれやすいのを感じていたんです。

一方で自分自身のひとり暮らしの頃の食生活を振り返ると、深夜まで残業してコンビニ弁当の日も多かった(笑)。今思うと、どんなに忙しくても食事はないがしろにしたくないですよね。そこで、ひとり暮らしの人が「食」を大事にして、楽しむことをコンセプトにしよう、「食」を通じてコミュニティが生まれる場にしようという思いが沸いてきました。

あくまで「食」であって「料理」ではないのは、食べることは好きだけど、料理が好きではない、必ずしも得意でない人にも届いて欲しいと思ったからです。だから、無理に料理しなくてもレンジでチンするだけでも美味しく食べられるし、1階のカフェでは出来たての料理を食べることもできます。誰でも、無理をしなくても、きちんとした食生活の送れるシェアハウスになればと思っています。とは言うものの、「コミュニティーキッチン」と呼んでいる最上階のキッチンにはグレードの高い料理家電をたくさん入れています。料理好きの方には、とても良い環境だと思いますよ(笑)

1階にカフェ、最上階にキッチン・ダイニングと食に関わる動線がユニークですね。

和田さん 仕事から帰ってきて、カフェでご飯を食べてからリビングへ上がったり、キッチンでご飯をつくっているときに誰かと話したり、食後に今度はキッチンまで食器を持っていったり。食べることを中心に建物のいろいろなところへ動いていくイメージがありますね。その日その日の、自分のお気に入りの場所を発見してもらえたらいいなと思います。

杤尾さん 動く方の「動線」だけではなくて、導かれる方の「導線」も意識しています。食べることや、食べるものに対する興味を持てるように導く役割を担うのが、コミュニティーキッチンの位置付けですね。荻窪にある「ラベイユ」さんという蜂蜜専門店とのワークショップや、地場野菜を使ったカフェメニューなど、食に意識を向けるきっかけになる仕掛けをいろいろ考えています。

カフェがリビング代わりに使えるのは、いいと思うんですよね。

1階は、どんなカフェになるんですか?

和田さん 荻窪の「食の魅力の再発見」をテーマにしたカフェで、地元の素材を使ったメニューを予定しています。

外から見るとカフェは1階だけのようですが、実は吹抜けになっていて2階席があります。この2階席にキッチンが付いていて、プライベートな料理教室やイベントの開催もできるようになっているんです。こうした場所も含めて、カフェとシェアハウスのつながりがとても重要だと考えています。

杤尾さんカフェの2階にキッチンを設けたのは、以前手がけたHOTEL EDIT YOKOHAMAの経験が大きいです。

上が分譲マンション、下がホテルという珍しいかたちの建物だったのですが、ホテルのレストランの一部を「シェアキッチン」としてレンタルスペースにしてみたら意外と人気で。レストランが連動しているのでフルサービスで使うこともできるし、自分たちで料理をつくりながらイベントもできる。入居されている奥様たちに積極的に使われて、結構重宝されていました。

PLOW&CO.ではさらに発展させて、周辺地域も巻き込みながらいろいろなイベントができるといいなと考えています。

カフェのある住まいでは、どんなライフスタイルが生まれると思いますか?

和田さん PLOW&CO.の入居者さんは、1階のカフェのコーヒーが1日1杯無料なんです。通勤前や帰宅時に、コーヒーを飲みながらカフェの店員さんとも仲良くコミュニケーションを取れる関係があると、ただの集合住宅とはまったく違った暮らしになりますよね。

朝8時からオープンする予定なので、コーヒーを飲みながらカフェで朝食をとるのはもちろん、コーヒーをテイクアウトして6階のテラスでパンと一緒に食べるのも良いかもしれません。SOHOやフリーランスの方なら、気分転換にカフェで仕事をすることもありそうです。カフェがリビング代わりに使えるのは、いいと思うんですよね。

そういう意味でも、単なるテナントとしてカフェが入っているのではなく「カフェ付きのシェアハウスに住んでいる」という点を、きちんといいなと思ってもらえるように気をつかいましたね。

杤尾さん 行き付けの場所があるといいじゃないですか。「ただいま」とか「いってきます」と言えて、自分のリビングのように使えるカフェがある。自分のステータスにもなるし、そういうライフスタイルは面白いと考えていました。入居者さんにとっては、リビングがふたつあるような感覚だと思います。1階はフルサービスでやってくれるリビング、6階は自分たちでつくるリビング。気分によって使い分けができるのもメリットだと思います。

「食」をサポートしていく方法のひとつとして、前の日に「何時までに朝ご飯が欲しい」とカフェの方にお願いしておけば、時間までにリビングに届けてくれる、というところまで含めてサービスとして提供できればいいなと話をしています。お母さんにお弁当を頼むような感覚。絶対に便利だし、嬉しいですよね。

所さん イベントの開催も企画しています。「食」をテーマにしているだけあって、入居者さんも関心の高い人が多いようですね。

※2021年6月末にて1Fカフェ「CULTiCO」は閉店いたしました。

空間に足を踏み入れた瞬間に 何が見えるかが重要だと思っています。

シェアハウスの共用部を最上階に配置したのは?

杤尾さん ホテルや共同住宅の企画で、共用部をどこにつくるかという問題はいつも議論になるところです。特に今回はシェアハウスということで、共用部は長い時間を過ごす場所になりますよね。それなら一番環境のいい6階に持ってこようというのが、自然な流れでした。

1階に配置することも多いと思いますが、今回は光がなかなか入って来にくいという点に加え、1階には街に対してアクションのできるカフェをつくりたいという要件がありました。6階なら眺望の良いテラスも付けられるし、窓が北の方向に向いているので、優しく光も入ってきます。設計は、特に夏にテラスに出たときの光の入りかたを意識しながら進めましたね。

キッチンの配置にも意図を感じます。

杤尾さん 空間に足を踏み入れた瞬間に何が見えるかが、とても重要だと考えているんです。エレベーターのドアが開いた瞬間、目の前にはキッチンで料理をしている人がいて、手前のカウンターに人が座っている。料理している人とカウンターでご飯を食べている人が話している風景が最初に見えると、ここはキッチンがメインなんだと認識できるのではないかと思います。

それから、リビングとテラスを一体的に使える、つながりを持ったレイアウトにしました。建物の両側にテラスを設けて片方に屋外キッチンをつくるアイデアもあったんですが、ひとつひとつのテラスが小さくなってしまうとインパクトが弱まってしまって。確かに外で料理ができるのも素敵だけれど、空間を最大限活かすならテラスはひとつにまとめて、広く使ったほうがいいだろうと。そしてエレベーターの正面にキッチンが見えたほうがいいと総合的に考えて、全体のバランスを取りました。

和田さん オーナーが魚屋さんということで、建物全体を船と港街に見立てた裏のテーマもあるんです(笑)。壁が斜めになっている台形型のリビングに、荻窪の空に浮かぶ甲板のようなテラス。最上階は、どこか船を思わせる空間になっています。そこで、照明も船に使われていそうなデザインにして、テーマカラーも海をイメージした青やグレーにしました。

リビングには畳のスペースもありますよね。

杤尾さん 人によって、それぞれ好みの過ごし方があると思うんです。裸足で正座したいとか、ゴロリと横になりたいとか。多様な要望に応えていくには、和風のスペースもあったほうがいいと考えました。でも、本当の畳を使うと空間のテイストを合わせるのが難しい。そこで、畳らしさのある要素を抽出して、空間に盛り込むことにしたんです。化学繊維ビニールを編んでつくられた素材で小上がり状の場をつくり、内部を収納としても使えるようにしました。ベンチとして座ることもできるし、横にもなれる。無駄なスペースをつくらずに、空間をうまく使えたのではないかと思います。

専有部では、壁の塗装や棚のカスタマイズができるとか。

和田さん 壁のクロスは、そのままでもデザインとしては成り立つものですが、上からペンキで塗装ができるものが貼ってあるんです。入居時に、初めてでも塗りやすいペンキの好きな色を二缶(ロフト付きの部屋は三缶)プレゼントしていて、塗り方のワークショップも開催予定です。入居者さんが入れ替わったときも、上から自分の好きな色に塗ることができるんですよ。

杤尾さん 自分自身ですこしずつライフサイクルをつくっていくテーマの関係で、部屋がカスタマイズ可能であることは前提と考えていました。収納棚も、アームの長いものと短いもの、フック、棒と、様々なカスタム用のアイテムが簡単に手に入るようにしてあります。とにかく取り付けやすい備品がたくさんあって、想像力を駆り立てることを念頭に置きましたね。

和田さん 洋服の多い人はハンガーの掛けられるバーを取り付けたり、棚板に洋服を積み上げてディスプレイするように収納することもできます。本が多い人なら、棚板の上にブックエンドを使って、ずらりと並べて収納ができますし、女性なら鏡を置いて照明をクリップで留めると、ちょっとしたドレッサーになります。壁際に家具を置きたくなったら棚板を外してスッキリ納めたり、とにかくいろいろなニーズに対応できるようにしてあります。

賃貸住宅に暮らすのは、たいてい数年程度の期間が多いですよね。それでも自分のお気に入りの部屋にカスタマイズして、すこしでも長く住んでもらえるきっかけになればいいなという思いもあります。

杤尾さん 自分自身で「どのように暮らしていきたいのか」を考えて欲しいという思いが根っこにあります。自分の生活を見つめ直して、「こういう暮らしがしたいなら、ここに棚があるといいね」「ここに洋服掛けあるといいね」と、ライフスタイルを考えながら自分の住まいをつくっていく。結果的により自分らしい生活ができるようになったら、いいですよね。

荻窪の街とは、どのように向き合っていくことになりそうですか?

和田さん 荻窪には、子育てに熱心なファミリー層が住んでいるイメージがありました。駅の近くは単身者用のマンションが中心ですが、すこし離れると戸建てやファミリー向けのマンションが多くなるんです。

駅の反対側にはいくつかカフェがあるのですが、このあたりには子育てママが来られる地域のコミュニティーの核となる広い場所がありません。だから、オーナーさんにはイベントができたり、子どもたちの食育講座をしたりするカフェをつくりたいという思いがあったんです。そこで、もともと思い描いていた荻窪の子育てママが集えるようなカフェを1階に入れることになりました。

1階のカフェは街とつながるリビング、6階の共用部は入居者たちだけの特等席のリビングというように、それぞれ連動させながら地域とシェアハウスのコミュニティーを育む場所にしたいですね。

杤尾さん 荻窪は今でも充分暮らしやすいのですが、まだまだ良い環境の生まれる余地がある街だと思うんです。人のツボを押すみたいに街のなかにあるツボをひとつ押すことで、それが波及してカフェが増えたり、もっと子育てのしやすい環境が整っていったりということが、広がっていくはずだと思っています。点が線になって、線が面になって、もっともっと良い街になれるかもしれない。そうやって、街に還元していければと考えています。

「PLOW& CO.」には、どんな人が暮らすことになりそうですか?

杤尾さん 「食」というテーマですが、別に料理ができなくてもいいんですよね。食べるのが好き、人と食事をする時間が好き、というところをきっかけにして、暮らしの体験が広がっていけばいいと思います。

和田さん いろいろなタイプの人がいてくれると面白いですね。プライベートも大事にして、気が向いたときにリビングに出てくるという人も大歓迎です。全38部屋とそれなりの人数がいますから、コミュニティーに対して自分の居心地のいい過ごしかた、心地のよい距離感を探してもらえると良いのだと思います。

運営担当者が語る『PLOW & CO.』のツボ

今回のシェアハウスでこだわったのは “食の導線”です。食事は、生活の中で一番の基本です。忙しい毎日に追われて、ついないがしろにしてしまいがちですが、 使い勝手のよいキッチンがあったらつくってみようかなと気軽に思えたり、 建物の中に健康に配慮したカフェがあったら、部屋に入る前に寄ってみたり、 一緒に食事をする仲間が近くにいたら楽しく食事できたり、ということはありませんか。 そんなちょっとしたきっかけで、生活の質はがらりと変わるのではないでしょうか。

“PLOW” は「鋤く、耕す」という意味。生活を整えて、丁寧な暮らしをサポートする。“& CO.” は、「仲間たち」「コミュニティ」という意味。コミュニティを大切にしたシェアハウスを提供する。『PLOW & CO.』には、そんな想いが込められています。

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